2021/04/26

無口なHCベリチックとジュリアン・エデルマンの深い絆

先日、ニューイングランド・ペイトリオッツのWRジュリアン・エデルマンが引退を発表しました。小柄な体格ながら、鉄砲玉のようにぶっ飛んでいく姿や、ACLをやった時に「チックショウ!」とヘルメットを地面に投げ捨てた姿が目に浮かびます。ガッツのあるプレイが魅力でした。

昨年オフシーズンの膝手術から回復できなかった結果ですが、その2年前にもACLを痛めているし、身体はもう限界だったのでは。年齢を重ねてから後遺症が残りそう・・。フィールド上に自分のすべてを置いてきたのだと思います。

大学時代はクォーターバック。カナダのフットボールリーグからQBとしての誘いもありましたが、NFLへ挑戦するためレシーバーに転向。ドラフト7巡で指名された後、じわじわと力を発揮しチームのスターに。スーパーボウルMVPも受賞しました。

不屈の闘志で成り上がったジュリアン・エデルマンは、自分の始まりをこんなふうに語っています。

「クォーターバックだから、ウエイトトレーニングはしなかった。それで、ユークリッド(オハイオ州)の練習施設でウエイトを上げ、トレーニングを始めた。2週間後にチャーリー・フライ(元NFL選手・現在ドルフィンズQBコーチ)がやって来た。彼がレイダースに行く前の年だ。NFLクォーターバックの球をキャッチして、驚愕したよ。

彼と彼の練習仲間がいて、僕をコーチしてくれた。彼らの練習を見て僕は技術を学んだ。1日に55ルート走ったよ。次第に自信がついてきた。練習一筋。生きるか死ぬか。そんなふうに3ヶ月特訓した。チャーリーは僕のプロディでも投げてくれた。

だけど、僕が何か誰も分からなかった。チーム練習に招待され、スティーラーズではバックペダルをした。セーフティで使えるかと。クリーブランドでは2、3のポジションを試した。ペイトリオッツではランニングバックのドリルや、プロテクションを試された。

1週間後にスペシャルチームのコーチに呼ばれて、今度はパントやキックオフをキャッチできるかテストされた。いろんなチームで、様々なワークアウトをした。シカゴやマイアミ、49ersとは何度も会った。

ドラフトが6巡になると、数チームが急に電話をかけてきた。「指名はしないが、200万円でフリーエージェント契約しよう」と。4つか5つそんな電話があって、エージェントは「パッカーズがフィットすると思う。パッカーズに行こう」と話していた。

7巡でエリアコード508(マサチューセッツ)から電話がきた。ベリチックのアシスタントだったと思う。「ジュリアン。ニューイングランド・ペイトリオッツだ。君を指名する。ベリチックコーチに代わるよ」と。

座っていた僕は、気が動転した。ビル・ベリチック!「やあ、ジュリアン。君は、まあその、良い選手だ。君が何をするか分からないが、ルーキーキャンプで会おう」と彼が言い、「もちろんです、コーチ!お会いします!」と答えた。

1年目は大変だった。トム・ブレイディだけじゃない。チームにはランディ・モス、ウェス・ウェルカー、ジョーイ・ギャロウェイがいた。スペシャルチームのサム・エイキンズ、トレードで獲得したグレッグ・ルイス。レシーバールームで他の9人と座り、計算してみた。このうち何人を残すんだ?10人のはずはない!

試合のスピードが違う。違いすぎることばかりだ。だけど、自分はここに属する人間だと演じなければ。でないと、誰かが自分に取って代わる。

チームが求めるのは、何でもできる、精神的にタフな選手。それを先輩から学んだ。ケビン・フォーク、トム、ウェス・ウェルカー。僕にビッタリのチームだ。僕はその通りの選手だから。

NFLは、精神的に戦闘の準備ができていなければ、負ける。僕は準備万端だった。毎週の戦いに。

自分を信じることだ。雑音を無視し、成すべきことに集中する。ただ頑張るだけじゃない。コーチや先輩の助けを借りて、自分に不足しているものを見極め、努力する。

人なら誰でも自分を疑う時がある。否定する人もいる。それを遮断し、力を尽くす。少しでも力があり、上手くなりたいと思うなら、真剣に努力するんだ。やれないことはない。僕がその生きた証拠だ」

不屈の魂がユニホームを着て歩いているようなジュリアン・エデルマンでした。

彼の引退を受け、ニューイングランド・ペイトリオッツHCビル・ベリチックさんは、「私がコーチした選手の中で、最も成長した選手」と称賛しています。

常に仏頂面で、余計なことは一切言わない方が、こんなに誰かを褒めるなんて、今まであったでしょうか。

「エリート選手のキャリアを測るものとして、勝利、チャンピオンシップ、結果が挙げられるが、ジュリアンはその全てを持っている。ジュリアンほど業績を残した選手はまれだ。彼の来た道、選手生命を考えると、その数はもっと少ない。歴史的である。彼の競争心、精神的、肉体的強靭さ、上を目指す意志がもたらしたものだ。

来る日も来る日も、ジュリアンはいつでも同じだった。全力のみ。そして、重要な試合で、チャンピオンシップの瀬戸際で、彼はそれ以上の力を発揮した。チームのために何でもした。キャッチ、ラン、ブロック、リターン、カバー、そしてタックル。どんな場面でも、負けまいとする強い姿勢で戦った。ジュリアン・エデルマンは究極の挑戦者だ。コーチできたことを光栄に思う」

こんなに褒められちゃってもう、どうしよう。ジュリアンどっかで泣いてるんじゃないの。

なんつったって、めったなことでは口をきいてくれないコーチなんです。10年間の選手生活で、ベリチックさんと言葉を交わしたのは8回しかないとか言ってました。こちらの動画で。

夜の10時、11時まで練習施設にいるのが好き(!!)と語るエデルマンが、プロ1年目の出来事を告白しています。

「真っ暗なウェイトルームに誰がいるのかな?とのぞいてみると、そこにビルがいた。(0:58)

スクリーンにはフィルム。大きなノートを広げ、耳の横には鉛筆。トレッドミルの上でメモを取ってるんだ。夜11時だから他には誰もいない。信じられないよ。狂ってる。

僕は急いで逃げ出した。見つからないようにね。

その後、ジャグジー部屋を通りかかると、ジャグジーの中にコーチがいた。(1:40)

もちろん僕も入りに来たんだが、そこで目が合った。本能的に、振り向いて立ち去ろうとした。けど、彼は僕に気がついた。そして立ち上がり、出ていった。

本当はみんなショーツを着用する決まりなんだ。だけど夜11時だし、コーチ御大だ。なんでも認められる。僕は、自分の恐怖に慄く顔を隠さなきゃならなかった。ソレを見てしまった時は。

僕もジャグジーに入ったんだが、変な気分だった。トランクスなしで入る人がいるなんて知らなかった。公共物なんだよ。だけどコーチだ。スーパーボウルのリングを3つ持っている。

もうコーチには会わないで帰宅したかった。だけどホールでまた会ってしまった。(3:43)

彼の一歩後ろを僕は歩いた。それ以上でもそれ以下でもない。無言のまま、30メートルくらい。この夜の出来事、すべてが信じられなくてね、ちょっと話しかけてみようと思いついた。

『コーチ、こんな夜遅くまでいるなんて、すごいですね』

彼は振り向き、こう言った。『配管工よりいいだろ。また明日』

僕の頭は混乱した。どう考えたらいいのか。彼は何を言ったのか。僕は怖いくらい幸せで、涙がひとすじ流れたと思う。だって、これがコーチと初めての会話だったんだ。

いや違う、2度めだ。ルーキーの時にOTAでパントのキャッチを教えてくれた。けどそれ以外は『ヘイ、コーチ』『ヘイ、ジュール』。そんなかんじさ」

というエピソード、結構いいと思いませんか。

コーチ。ジュリアン。ふたりの間に言葉はいらない・・・・。

2021/04/21

アスリートにナニクソ根性は必要なのか トレバー・ローレンスの場合

みなさんこんにちは。NFLドラフトがいよいよ来週に迫りました。3つしか指名権のないシーホークスは一体どうする?とか、いろいろ気になっております。

今日は、全体1位指名確実と言われるクレムゾン大学QBトレバー・ローレンスくんについて書いてみたいと思います。先日、スポーツイラストレイテッド誌の記事で、「誰かを見返してやろうとか、そういう闘争心はない」と答えて、話題になってました。

例えば、6巡まで指名されなかった(ブレイディ)、背が低いためプロになれないと言われた(ラッセル・ウィルソン)、地元の49ersにスルーされた(ロジャース)、ワイドレシーバーへの転向を勧められた(ラマー・ジャクソン)、トルビスキーが先に指名された(マホームズ)、などなど。

「お前はムリ。ダメ」という烙印を押されたことで「クソ!チクショー!」と闘志をメラメラ燃やし、その結果、プロ選手として成功するパターンは多くあります。「侮った奴らにオレの力を証明してやる!」という気迫が、大きなエネルギーになる訳です。

ところが、ローレンスくんにはそれがない。

「ベストな自分になりたいからフットボールをする。自分の可能性を最大限に試したい。誰だってそう思うはずだ。じゃなかったら、自分を無駄にすることになる」

「説明が難しいな。フットボールには情熱を持っていて、それが僕にとって一番大切なことだ。だけど、何かを証明しようとか、誰かを見返そうとか、そんな気持ちはない。作れないし、作ろうとも思わない」

と言う彼。一方で、父親は

「彼は賞が欲しいわけじゃない。『何が何でもスーパーボウルを手に入れる』というタイプじゃないんだ」

と語り、彼をよく知る高校時代のコーチは

「明日フットボールをやめたとしても、普通に生きていくと思うよ」と、こだわりのない彼の様子を語ります。

エルウェイ、ペイトン・マニング、アンドリュー・ラック以来の有望選手と言われているトレバー・ローレンスは、幼少の頃からスターでした。

7歳で、すでに30メートルのミサイル弾を投げたといいます。

自分の息子をクォーターバックするつもりだったユースチームのコーチは、これを見て「この子と同じ町に住んでる限りクォーターバックはムリ」と、息子をワイドレーシーバーに。

トップレシーバーだったその息子も、成長するにつれ、ポジションの保持が難しくなります。ローレンスの球をキャッチしたいと、優秀な選手がぞくぞく集まってきたからです。

「いろんな所から編入生が来た。ついていくために一生懸命頑張ったよ。だけど中3の頃にはもう限界だった。みんな上手すぎた」

高校1年で先発QBとなり、先輩QBはタイトエンドに転向。試合の日は遠くから観客が押し寄せ、スタジアムは常に満席。立ち見席も出ました。試合後の地元レストランは大繁盛し、市長よりも有名な高校生に。

超エリート選手としてリクルートされ、クレムゾン大学に入学すると、4試合後には先発の座を奪い取り、1年目で全米チャンピオンに輝きます。

スター街道まっしぐら。挫折のカケラもありません。「ナニクソ根性」なんて生まれる余地はどこにもなし。

4歳年上の兄、チェイスくんの存在もあります。

仲が良く、弟のフットボールはもちろん応援しますが、スポーツには全く関心なし。個人的に知っている人が出場するわけでもない試合を観戦する人々がいるという事実が、彼には理解不能とのこと。

アートに興味があり、サイケデリックにも染まり、「まあいろいろやったけど・・人生をダメにはしてないさ」と語る、ヒッピー風の兄貴。

汗流して練習から帰ってきたら、カウチで兄貴が何か煙みたいなものを吸いながら「ヘイ、トレバー。元気かい?」なんつって映画なんか見てたら、どうします?いやー、人間っていろいろ、って思うしかないよね。

中学、高校と全米に名前が響き渡るにつれ、慢心も出るでしょう。その反面、悪口も多く聞くだろうし、そういうグチャグチャした成長期に「フットボールとかどうでもいい」という人が身近にいるって、安心するものじゃないでしょうか。

父親もまた、「神様はお前に素晴らしい才能をくれた。しかし、いずれはフットボールから得るものより、失くすものが多くなる。その時はやめなさい」と高校の時からアドバイスしてきました。

フットボールが大好き。才能も実力も自信もある。自分のベストを極めようと思う。しかし人生はフットボールだけではないことも知っている。って、なんと達観したルーキーでしょうか。

カレッジ最後の試合は全米選手権準決勝でオハイオ州立大学にボロ負けしました。「僕にできることはすべてやった。あの時点で、自分にもっと何かできるはずだ、と思うなら、それは自分が愚か」といたってクール。

ついこの間、長年の彼女と結婚式を挙げました。この時期の結婚に疑問を唱える人もいましたが、

「他人の目に奇妙に映るからといって、3年待つなんてことはしない。どうでもいい」

「ずっと一緒にいたい、結婚したい、生涯を共に過ごしたい人を見つけるって、誰にとっても重要なことだよね。それを僕たちはすでに見つけたんだ・・・最高じゃないか」

とも話しています。

下は2年前、大学のプレゼンテーションの様子ですが、「僕のヘアのお手入れ方法」というタイトル。

そんでタイトルの下に「トレバー・タッチダウンジーザス・ローレンス」と名前が。

自分をネタにするという、こういう客観的なところ、感心しちゃいます。外から自分を見れるって、大きな武器になるんじゃないかな。

とはいえ、ジャクソンビル・ジャガーズのQBになってですね、1年目からガンガン勝てるハズはないですよね?5連敗、6連敗とかなっちゃって、批判を浴びたりするでしょう?

そうなった時にどうするのか。カレッジでは2回しか負けたことがない人が、その苦境にどう立ち向かうのか、そんなところが見てみたい。

ジャガーズは、カレッジ出身のヘッドコーチ、アーバン・マイヤーが就任したことでも注目されています。いろいろ話題を提供してくれるでしょう。大いに期待したいです❗❗

2021/04/15

デショーン・ワトソンの光と闇

みなさんこんにちは。ドラフトを目の前に控えた今日この頃、いかがお過ごしでしょうか。本日は、ヒューストン・テキサンズQBデショーン・ワトソンをめぐる訴訟について書きたいと思います。

ワトソンといえば、プロ入りした年に、初任給を全額ハリケーンの被害にあった球場カフェテリア職員に寄付したこともありましたよね。チャリティ活動にも熱心で、リーダーとして人望も厚いと聞いていました。

クォーターバックの実力は誰もが認めるところ。昨年最後の試合の後、チームメートのワットさんが「(こんなチームで)ゴメン。(QBとしての貴重な)1年を無駄にさせちゃったな」と声をかけるシーンには、しんみりうなずく人も多かったのではと思います。

それが、今回の事件でワトソンに対する評価は一変しました。

まだ裁判は始まっていません。何も立証されてはいませんが、数々の報道から、かなり異常な状態が明らかになっています。「いや、人間って、本当に分からないものだな」というのが、今の率直な感想。

事の起こりは3月16日。ヒューストンの弁護士トニー・バズビーが、テキサンズQBへの民事訴訟を行うとインスタグラムに投稿。

一方ワトソンはツイッターで「訴えの内容は見ていないが、女性には常に敬意ある態度で接してきた。訴訟側は根拠のない6ケタ(千万円台)の示談金を要求した」と即刻反論しました。

ちょうど彼がトレードを要求していた時期。テキサンズのオーナーとバズビーとの陰謀か、という声も。(でもワトソンの株を落としてトレード対価が下がるのはチームとしては不利)

また、このバズビーという人が、市長選挙に立候補して負けたり、「ジョニー・マンジールをドラフト指名しろ」とビルボードを出したり、かなり癖の強そうな人物。インスタグラムで告発するという手順もどうなのか。「うさんくさ・・」という第一印象でした。

以後、複数のマッサージセラピストが、施術中にワトソンが不適切な行為(性器の露出、性器での接触、オーラルセックスの強要など)をしたと訴え、その数は現在22人。

ワトソンの弁護団は「彼はそんなことはしない」と主張するマッサージセラピストが18人いると発表しましたが、これって弁護になるの???

だってこれだけで計40人。40!!!

一般の人だって歯医者さんや美容師さんや整体師とか、決まった人のところに行くのが普通じゃないですか。プロのアスリートともなれば、トレーナー、コンディショニングコーチ、栄養士など固定スタッフがいるはず。不特定多数の人に自分の体を触らせるとは考えにくい。

現に、17年間NFLのチームドクターをしていた方が、そんな話は聞いたことがないと語っています。

「マッサージセラピストはチーム施設にもいる。怪我の予防、疲労回復、リハビリの一環として治療の一部になっている。アスリートは習慣を大切にし、いつものやり方を好むものだ。ホテル代を払っても自分のセラピストを遠征先に呼ぶ選手は多い。ワトソンはもうルーキーじゃない。セラピスト探しは終わってるはずで、人を乗り換える理由が分からない」

さらに、インスタグラムのメッセージでセラピストに連絡していたことも疑問です。NFLのクォーターバックですよ。知人を通して信頼できる人を紹介してもらうのが普通じゃないの?有名人だからこそ慎重になるんじゃないの?ランダムにネットで探して連絡するってどうなの?

原告の一人は、ワトソンがインスタグラムで予約を入れ、アトランタからヒューストンのホテルへ飛行機で向かったと証言しています。2020年の8月。パンデミックの真っ只中。トレーニングキャンプが中止になるほど感染症対策している時期に、ありえない。

衝撃的だったのが、スポーツ・イラストレイテッド誌の記事です。デマを売るようなメディアではありません。確信がなければ配信はしないはず。本文中でも、セラピストの家族から当時の証言、電話とソーシャルメディアのメッセージを確認をして、裏付けを取ったと説明しています。

記事中のマッサージセラピストは、告訴中の一人ではありません。ワトソンが施術中に触ったり、性行為を要求もしたわけでもない。そう前置きして、彼の行為を語っています。

2019年秋、知人セラピストからの紹介で引き受けた仕事でした。あらかじめ、顧客からビルの裏口から入ること、体を覆うのはシーツではなくタオルを使用するリクエストがあり、彼女は大きめのビーチタオルを用意しました。

一般にマッサージは、身体をシーツで覆い、施術する部分だけ肌を出すという方法を取ります。そのようにして45分程経った時、ワトソンは「かゆい」とタオルを床に落としました。顔は天井を向いた、裸の姿。1000人以上の顧客を持ち、数年マッサージの仕事をしてきた彼女ですが、こんなことは初めてでした。

「驚きました。でも、紹介してくれたセラピストを信頼していたので、変なことにはならないはずだと思ったんです」

90分が終わると、ワトソンは1時間の延長を願い出ました。彼の要求どおりに大腿、腹部のマッサージを続けるうちに、勃起に気がつきました。体を固くし、ゆっくり突き上げるような動きもしています。

マッサージが強すぎて痛いのかと思い、ワトソンに尋ねると「大丈夫」という答え。動きも止まりました。

身体がリラックスした反応で勃起する場合があることは、セラピストとしての訓練中に学んでいました。居眠りの間に勃起し、目が覚めてばつが悪い様子の顧客もいました。しかしワトソンの意図は、それとは違うと彼女は感じました。

「必要なら(ペニスを)動かしてもいい。そう彼は言いました。私は完全に無視しました」

2時間半のセッション中、ワトソンはずっと仰向け。腹部をマッサージする時に、体液を目にします。これは射精前の体液なのだろうか、そんなはずはない。彼女は自分に言い聞かせました。

終了5−10分前に、彼は骨盤を突き立てる動きを始めました。今度はかなり早いペースで。

「この時点で、私ははっきり理解しました」

落ち着くよう伝えると、彼は動きを止め、施術が終了したので部屋を退出。服を着て戻ってくると、彼女にハグをしました。ビルの裏口へと案内した後、彼女はすぐにこのことを紹介先のセラピストに報告。家族にも電話しました。

後日、ワトソンから再び予約の連絡が入りましたが、彼女は断りました。その後数ヶ月の間に、インスタグラムのダイレクトメッセージでワトソンから2度連絡が来ましたが、彼女であることに気づいていない様子でした。

「以前マッサージしたことがある。態度を改めるなら引き受けてもよい。しかし本来のマッサージにのみ限る」と伝えると、「わかった。そんなつもりは無かった」との返事が来て終わり。

2020年秋にもインスタグラムでメッセージが届きましたが、この時も、相手が誰か気づかない様子でした。彼女は、過去に交換したメッセージのスクリーンショットをワトソンに送信しました。

「もしワトソンがトレードされたら、新しい都市のマッサージセラピストが標的になる。彼が自分の行為を否定するなら、私達が声をあげなければ。真摯な謝罪をしてほしい。私達に、同じ仕事をする同僚に。困惑させる状況に私達を置いたことに。

すでに、たくさんの人が私達を非難しています。彼がそんなことをする訳がない。そんな必要がどこにある?彼には美しいガールフレンドがいる。彼なら何だって手に入る。そのとおりです。でも名声が人格を決めるわけじゃない」

と彼女は語っています。

裁判がどれくらい長く続くのか分かりません。密室で行われたことの証拠なんて出せるのでしょうか。ひとつ確かなことは、デショーン・ワトソンがフィールドに戻って来るということです。力のある選手をNFLのチームが見逃すことはないから。

はー、見たくない。なにがかゆいだ。つべこべ言わずにパンツをはけ!以上。

続く。

2021/04/08

それぞれのドラフト物語 ダク・プレスコット&ラッセル・ウィルソン

みなさんこんにちは。今月はいよいよドラフトです。有力候補とされている数人のクォーターバックが、どの順で、どのチームに指名されるのかが、まず気になるところ。

しかし、1巡で指名された選手が間違いなくプロで活躍できるのかというと、案外そうでもありません。下位に埋もれていた選手が、実はプロボウル選手になったりする。一筋縄ではいかないところが、NFLを観る楽しみでもあります。

そんな見過ごされたクォーターバックのひとり、ダク・プレスコットが、2016年ドラフト4巡でダラス・カウボーイズに指名されたいきさつを紹介したいと思います。

その年のドラフト1位はQBジャレット・ゴフ、2位がQBカーソン・ウェンツ。プレスコットの前に計7人のクォーターバックが指名されました。

ダラスは全体4位でまずRBエリオットを指名。続いて、当時36歳QBトニー・ロモの後継者にと、メンフィス大学QBパクストン・リンチを狙っていました。次の指名権は34位。1巡中盤でリンチ指名が予想されるため、ダラスは9チームに電話しトレードアップを打診します。

興味を持ったのが26位指名権を持つシアトル・シーホークス。ダラスは2巡(34位)、4巡(101位)を差し出しますが、シアトルは2巡と3巡を要求。

「どうする?」ダラスのドラフトルームに沈黙が落ちました。

結局、シアトルはよりよい条件を提示したデンバー・ブロンコスに指名権を譲り、QBリンチはブロンコスへ。

肩をガックリ落としたカウボーイズのオーナー、ジェリー・ジョーンズは、翌日、苦悩の表情でこう語りました。

「今朝起きた時、昨日の決断をひどく後悔した。なぜ3巡を出さなかったのかと。私はいつだって最高級品には最高金額を払ってきた。バーゲンの安物買いは悔やむことが多い。ダラスの高層ビルから飛び降りたりはしない。大きな視点で見ることにしよう。だが、もう一度同じような機会があれば、3巡は放出する」

ドラフト3日目、ダラスのQBドラフトボードにあった名前は、1)コナー・クック、2)ダク・プレスコット。

4巡は99位、100位クリーブランド・ブラウンズ、101位ダラスから指名が始まります。クックを指名したいダラスは、101位と翌年6巡をブラウンズにオファーしますが、断られました。その年の6巡2つは?と条件を上げても、ダメ。

その間にレイダーズがブラウンズから100位指名権を獲得し、QBクックを指名。またもやQB獲得に失敗したダラス・カウボーイズは、4巡後半の指名権でQBダク・プレスコットを指名することになったのでした。

パクストン・リンチはブロンコスで4試合を先発し、2018年に解雇。コナー・クックは昨年春にXFLチームでバックアップを務め、XFLは解散。

一方、135位で指名されたQBプレスコットはカウボーイズの先発QBとして活躍し、今年3月に4年約160億円という大型契約を結びました。補償金額126億円。パトリック・マホームズに次ぐNFL史上2位の高額契約です。

下がお兄さんと喜ぶプレスコット。どっちがどっちか分からんけど。

ダク・プレスコットは3人兄弟の一番下で、シングルマザーの家庭に育ちました。大学の時にお母さんを癌で亡くし、昨年は上のお兄さんが自殺。プレスコット本人も鬱で苦しんだことを公表していました。そんなこともあってのこの大型契約は、本当に感無量だったことでしょう。

2012年ドラフトではQBラッセル・ウィルソンが3巡75位でシアトル・シーホークスに指名されました。その年1位はアンドリュー・ラック、2位ロバート・グリフィン3世。ウィルソンの前に指名されたQBは5人。

前年の10月、シアトルのGMシュナイダーはウィスコンシン大学を訪問し、ウィルソンに深く惚れ込みました。チームに戻って、スタッフに熱い思いを語ると、

「5フィート10インチのクォーターバック?その身長じゃコーナーバックだって取らんわ」

と疑問の声があがります。しかし、身長を別にすればQBラックに引けを取らないという、シュナイダーの高評価は変わりません。

ウィルソンは3−4巡での指名になるだろうとの予測。3巡指名が始まると、シアトルのドラフトルームには緊張が張り詰めました。QBを取るかもしれないビルズ、ジャガーズ、チーフス。息をのんでそれぞれの指名を待ちました。

幸い、ビルズはレシーバー、ジャガーズはパンター、チーフスはオフェンシブタックルを指名し、シアトルはウィルソン指名に成功します。

「彼と話すのが待ちきれなかった」とシュナイダー。

フィラデルフィア・イーグルスも3巡でウィルソン獲得を狙っていましたが、先取りされた形になりました。当時のイーグルヘッドコーチ、アンディ・リードはシュナイダーに電話し、「いい指名だ」と祝福の言葉を贈ったということです。

ということで、何があるか分からないドラフト。駆け引きがあり、読み違いが。期待はずれがあり、思いがけない幸運が。喜びが、ドラマが。

今年はトップ数人のQBがやたら話題となっていますが、3巡とか4巡とか、もっと下位にも有力選手が潜んでいるのかもしれません。

4月29日のドラフトは、クリーブランドで開催されます。ドラフト候補生も招待されているようなので、フレッシュな顔を見るのがメチャ楽しみです。