2021/01/16

【ワイルドカード】コロナにも負けず試合は続くよどこまでも クリーブランド・ブラウンズ編

ワイルドカード最後の試合は、クリーブランド・ブラウンズ対ピッツバーグ・スティーラーズ戦でした。まさかのターンオーバー祭りにびっくり。思いもよらない大番狂わせで、ブラウンズが勝利を収めました。

ブラウンズは、数日前に新型コロナウイルス感染者のクラスターが発生し、ヘッドコーチはじめ、数人の選手・スタッフを欠いての試合でした。練習施設も一時閉鎖に追い込まれ、不十分な体制からの劇的勝利。すごい。ほんと、いろんなことがありますNFL。

新型コロナの危機に立ち向かいながら、試合に臨むブラウンズの1週間を報道する記事があったので、紹介したいと思います。

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レギュラーシーズンの最終試合前日。ブラウンズのオフェンシブラインコーチ2人が陽性と判明し、GMベリーは選手への感染を懸念しました。まさかの時のラインマンが必要だ。

朝9時半、ニューヨーク・ジェッツGMダグラスに電話。友人でもある彼に事情を説明し、ジェッツの練習生Gブレイク・ヘンスの移籍を依頼します。この日、ジェッツが最終戦のフォクスボローへ出発する前に、移籍に伴う書類をすべて整えました。

選手が飛行機で移動した場合、新チームに合流する前に5日間連続コロナ陰性証明が必要となります。(空港や機内で感染の危険があるため)幸いにもニューヨークとクリーブランドは車で6時間半ほどの距離。朝の検査ですでに陰性が判明しているヘンスは、自分の荷物を車に積み、700 kmを運転してブラウンズのホテルへ到着。午後7時半でした。

ホテルのエレベーターで見慣れた顔に遭遇。2019年ワシントンフットボールチームのキャンプで一緒だったQBケイス・キーナムです。彼は現在ブラウンズの控えQB。

「あれ?会ったことあるよね?」とキーナムが声をかけました。二人ともマスクをしているので、顔の半分は隠れています。

「ケイス、僕、ブレイクだよ。ブレイク・ヘンス」

びっくりしたキーナムは、なぜここにいるのかと尋ねました。「このチームになったんだ」とヘンス。

他のチームメイトと実際に会うことは、翌週の金曜までありませんでした。新たな感染者が見つかったためです。ブラウンズの1週間は以下のとおり。

火曜日:朝5時15分にGMベリーの電話が鳴りました。HCステファンスキとプロボウル選手Gバイトニオが陽性との知らせ。18年ぶりのプレイオフ戦への出場が不可能に。

「ショックだ。ケビン(ステファンスキ)はマスクにとても厳しいんだ。いつもマスクを着用していた。してない人に怒鳴ってたのを4回は聞いた。1回は審判で、選手に3回。彼が感染するなんて信じられない」と、ブラウンズの選手。

午後3時、HCステファンスキがズームで選手とスタッフ105人とミーティング。淡々と事実を伝え、外は「いい天気だ」とも語り、落胆した様子は皆無でした。当惑した選手もいましたが、シーズンを通して冷静沈着なヘッドコーチの姿勢はそのまま。

「君たちは、今シーズンずっとカーブボールへの準備はしてきた。これもまたその一つだ」

水曜日:新しい陽性は出ませんでしたが、練習施設は閉鎖。ズームでゲームプランを確認し、ウォークスルー。オフェンス陣はスティーラーズのディフェンスフォーメーションをスクリーンに映し出し、QBメイフィールドがプレイをコール。それぞれのプレイについて、他の選手はアサインメントを口頭で述べたり、ズームカメラの前で動いたりします。

ズームミーティングの後、選手は自宅で筋トレ。QBキーナムは1歳の息子さんを抱えてスクワット。

木曜日:施設閉鎖のまま、ズームミーティング。試合でプレイコールをする代役になったOCバンペルトは緊張気味。HCステファンスキがするであろうプレーをコールするつもりです。

「誰も同じコールなんてできやしない。彼(ステファンスキ)が自宅でテレビを見ながら『何やってんだ!』って怒鳴る回数が少ないことを祈るよ」

この時点で、感染者リストは選手7人、コーチ6人。

「コーチはいつも言ってた。オレたちはカーブボールを打たなきゃいけないんだと。またひとつ飛んできたってわけだ。大変だけど打たなきゃ。それしかない。2021年になったけど、まだ2020みたいな気がする」とWRランドリー。

金曜日:ブラウンズは2つのコロナ検査を開始しました。より正確なPCR検査と、結果が早く出るMESA検査。先発SハリソンがMESAで陽性反応。以後3日間、両検査で陰性となれば、偽陽性と診断され、試合出場が可能となりますが、この時点ではまだ不明。CBワード、CBジョンソンはすでに陽性が確認され、欠場は決定済み。

午後4時、練習施設に使用許可が下りました。選手は3つのシフトに別れ時間差出勤。ロッカールームは使えず、着替えは寒い屋内フィールドで。間隔を離して置いた椅子の上にヘルメット、ジャージ、クリーツが置いてありました。この週初めての練習は90分で終了。

QBメイフィールドとQBキーナムは常に5メートル程の距離を取りつつ練習。特にメイフィールドは、誰にも近寄らないようにしていました。

「ベイカーとはできるだけ離れていた。僕ら二人は特に離れる必要がある」とキーナム。最悪でも、一人は感染を免れるために。

土曜日:ピッツバーグへの移動は、普段ならバスで約2時間。200 kmの道のりです。しかし狭い空間での密集を防ぐため、今年は飛行機2機を使用。161席と280席のボーイング機に、それぞれ60人の選手・スタッフが搭乗し、計120人が移動します。

それだけではありません。陽性のため欠場する5人のコーチ以外の、コーチ19人はそれぞれ一人ずつリムジンで移動。運転席と後部座席の間にはもちろんプレキシガラスが設置されています。

偽陽性かもしれないSハリソン選手、病気療養中のOTコンクリン選手、ほか3人の選手も同様に車で移動。

1台455ドル(約5万円)のリムジン代は、24台で合計10,680ドル(約120万円)。それにチップが加算されます。

「感染を防ぐためならどんなことでも」と語るGMバリー。

HCステファンスキ、GMバリーの対応にブラウンズのスタッフは信頼を寄せます。「物事に動じない二人なんです。嵐の中でもあの二人なら任せられる」

記者が「悪夢」と呼ぶ今回の危機について、GMバリーはこう語ります。

「悪夢とは思わない。私達はNFLプレイオフにいる。素晴らしいチャンスだ。サム・プレスティ(NBAオクラホマ・サンダーGMで友人)はこう言った。『プロフェッショナルとは、厳しい状況下で、どれだけレベルの高いパフォーマンスができるかで定義される』と。その言葉を、今週は考えさせられた」

午後9時、試合前最後のズームミーティング。選手・スタッフはホテルのそれぞれの部屋から。HCステファンスキは自宅の地下室から。

気迫あるスピーチをするタイプではありませんが、明日の試合は「ターンオーバーがカギとなる」と語ったステファンスキ。QBロスリスバーガーは、ラインにパスをティップされることが多い。「ティップされたボールとインターセプト。それが僕は見える」

第4クォーター残り10分。LGバイトニオの代役を務めていたLGダンが負傷退場。まさかの保険として獲得したブレイク・ヘンスがフィールドへ。

初めてのNFL試合。様々なチームで練習生を経験した2年間。ブラウンズの選手とは週末に会ったばかり。初めてのスナップで向き合うのは、スティーラーズのベテラン、プロボウル選手DEヘイワード。

ヘンスは15スナップをプレイし、サック、QBヒット共にゼロ。QBメイフィールドを守りきりました。

「レフトガードのジョエル・バイトニオの代わりをマイケル・ダンがしてたんだけど、マイケルが怪我。それでブレイクってやつが入ったんだ。試合前にロッカールームで自己紹介したばっかだよ。彼が第4クォーターでやってくれた」

と試合後にQBメイフィールド

パスラッシュがリーグ1位のスティーラーズを相手に、ブラウンズのオフェンシブラインは大健闘でした。許したのはQBプレッシャーが2回のみ。

いいなあ。シーホークスファンからすると、こういうのほんと羨ましい。

この試合を自宅で観戦したHCステファンスキさんですが、家族が見ているテレビと、階下の自分のスクリーンとの時間差があり、子どもたちが上で騒いでいる音でブラウンズが得点したことを知ったとのこと。

今年大躍進のクリーブランド・ブラウンズ。番記者の方が「HCステファンスキのクールな落ち着きが、チームに良い影響を与えている」と話していました。そうなのかもしれません。熱くなりやすい選手が多そうだし。

しかし、プレイオフは毎試合悲喜こもごも。スティーラーズ残念でした。今更ですが、17週のブラウンズ戦で、QBロスリスバーガーを休ませずフルパワーで戦っていれば、ブラウンズのプレイオフ進出を阻止できたかも。そんなことも頭をよぎります。いやほんと、一寸先は闇か。

というわけで、スーパーボウルを目指し、プレイオフは進みます。アメリカ中で新型コロナ感染者が爆発的に増大する中、ここまで試合を続けてきたNFL、すごいなと思います。それを可能にしたリーグ、スタッフ、選手の皆さんの飽くなき努力に感謝。

2 件のコメント:

  1. 飛行機2機使っての移動、頭下がります
    今回スティーラーズの選手の中にブラウンズに対して非礼な発言した人いましたが、そういったこともひょっとしたら『アメフトの神様』がブラウンズに味方したかもしれませんね

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    1. 飛行機、びっくりですよね。NFLってお金あるんだなあ。
      ブラウンズがハインツフィールドで勝ったのは17年ぶりで、その時と同じユニホームを着てたそうです。
      https://www.news5cleveland.com/sports/browns/browns-entering-playoff-game-against-steelers-with-something-in-common-from-last-win-at-heinz-field

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