今年春の時点では、ほとんど無名。NFLのドラフトボード上に名前は無かったかもしれません。しかしシーズンが始まると、LSUのオフェンスを率いて連戦連勝を重ねます。11月には強豪アラバマ大学との対戦に勝利し一気に注目を集めました。LSUタイガーズはここまで全勝、全米チャンピオン候補となっています。
パス成功率77.9%、タッチダウン48回は全米1位、パス獲得4715ヤードは全米2位の記録です。過去の大学トップQBのスタッツを見ると、パス成功率はだいたい70%そこそこなので、この数字は驚異的。バローくん本人の記録を比較しても、昨年の57.8%から大幅アップ。この1年でぐんと成長したことが分かります。
父親と二人の兄がネブラスカ大学のフットボール選手だったので、自分もネブラスカ大学でプレーするのが夢だったと語るジョー・バローくんですが、残念ながら入学の誘いを受けることはできませんでした。
「力が足りないと言われた。僕にノーと言ったスカウトの名前は全部覚えている。僕より先に受け入れられたクォーターバックもね。記憶に刻み込んでる」
と、けっこう根に持つタイプ。というか、悔しさが大きなモチベーションになるんですね。オファーをもらって進学したオハイオ州立大では3年間バックアップに甘んじ、出場機会を得るため転校を決意します。ネブラスカ大も視野に入れましたが、「現在いる選手より、彼の方が優れてると思うのか?」というのが当時のネブラスカ大学コーチの見解でした。
結局、コーチ・オーことLSUヘッドコーチ、オルジェロンさんに勧誘され、ルイジアナ州へ。昨年は10勝3敗、2年目の今年は新しいオフェンスシステムのもと、一躍大学フットボール界のスター選手へと成長しました。
そのジョー・バローくんのスピーチがこちらです。緊張して、フーッと大きな息を吐き、「僕が最初に言いたいのは」と言って言葉につまり、演説台を指でトントンして絶句・・・。(1:46)
「最初に、Oラインに感謝したいと思います」で始まり、チームメイトの名前を連呼。「みんなすごい選手なんです。チーム全員が僕を支えてくれました。オハイオから来た僕を両手を広げて受け入れてくれたんです。兄弟のように」
(略)
5:20「僕はオハイオ州南東部で育ちました。とても貧しい地域で、貧困層は全国平均の2倍です。何も持たない人々がたくさんいます。家に帰っても食卓にはが食べ物がない、学校の後はお腹をすかしている。アセンズの、そんな子ども達のために僕は今ここにいるんです。君たちだって、ここに登ることができるんだよ」
6:37「コーチ、僕の家族がどんなに感謝しているか想像もつかないでしょう。3年間ここでプレイしていなかった僕に、チャンスを与えてくれました。できる選手かどうかも分からないのに。この恩は一生忘れません。コーチ・オーのような方が僕をフットボールプログラムに入れてくれるなんて。僕と僕の家族、そしてLSUにとって大切な方です。大学はコーチと一生契約するべきだと思います。その価値はありますよ」
と笑いを取るところもいい。そしてコーチ・オーのまんまる顔が感激で紅潮してるところが、とってもいい。オハイオ大学、ルイジアナ州立大学のコーチ陣、チームメイト、自分を受け入れてくれたルイジアナ州のみなさんに感謝の言葉を尽くしたスピーチでした。
このスピーチの後、バローくんの故郷オハイオ州アセンズには全米からたくさんの寄付が寄せられたと報道されました。食料品を配布する慈善団体の1年間予算は約800万円のところ、なんと1週間で5千万円近くも。また、LSUの地元バトンルージュの慈善団体にも、このスピーチの後、寄付金が殺到してるとのこと。
お母さんは教師、お父さんは大学フットボールのコーチなので、バローくんがお腹を減らせていたわけじゃない。でも、そんな友達がたくさんいたに違いありません。幼いながらも、心を痛めていたんでしょう。
中学時代には、チーム分けで敬遠される下手な生徒をすすんで自分のバスケットボールチームに誘った。高校時代には、仲間はずれにされている生徒とカフェテリアで一緒に座った。大学時代には、レストランへ行く途中で見かけたホームレスの人にテイクアウトを注文して持ってきてくれた。という話も報道されています。
素晴らしい青年ではないですか。これは応援するしかないかも。
カレッジの試合はちょっとしか見てないけど、現地12月28日の準決勝オクラホマ対LSUは実況中継を見ようかな。バローくんは背が高くて、一見、足の早いトム・ブレイディ風ですよ。全米カレッジフットボール決勝は、2020年1月13日ニューオーリンズで開催予定です。